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逆三角関数の定義について

  • 三角関数 sinx,cosx,tanx\sin x,\cos x,\tan x の定義とグラフ
  • 関数の定義域・値域
  • 単射・全射・全単射
  • 逆関数
  • 一般角と弧度法

逆三角関数とは、三角関数の定義域を適切に制限して全単射にしたうえで定義される逆関数である。

代表的な逆三角関数は

sin1x,cos1x,tan1x\arcsin x,\qquad \arccos x,\qquad \arctan x

である。

三角関数は周期関数であるため、実数全体を定義域とすると単射ではない。したがって、そのままでは逆関数を持たない。そこで、各三角関数が単射となる区間に定義域を制限し、その制限された関数の逆関数として逆三角関数を定義する。

逆三角関数は、三角関数を用いて角から比を求める操作を逆にし、比から角を求める必要から導入された。現代では sin1,cos1,tan1\arcsin,\arccos,\arctan などの記号が一般的である。

sin1x\sin^{-1}x のような表記も使われるが、これは通常 1/sinx1/\sin x を意味せず、逆関数を表す。ただし混同を避けるため、本記事では sin1x\arcsin x などの表記を用いる。

三角関数を適切な区間に制限すると、次の全単射が得られる。

sin ⁣:[π2,π2][1,1],\sin\colon\left[-\frac\pi2,\frac\pi2\right]\to[-1,1], cos ⁣:[0,π][1,1],\cos\colon[0,\pi]\to[-1,1], tan ⁣:(π2,π2)R.\tan\colon\left(-\frac\pi2,\frac\pi2\right)\to\R.

これらの逆関数として、

sin1 ⁣:[1,1][π2,π2],\arcsin\colon[-1,1]\to\left[-\frac\pi2,\frac\pi2\right], cos1 ⁣:[1,1][0,π],\arccos\colon[-1,1]\to[0,\pi], tan1 ⁣:R(π2,π2)\arctan\colon\R\to\left(-\frac\pi2,\frac\pi2\right)

を定義する。

したがって、

y=sin1x    同値x=siny,π2yπ2,y=\arcsin x \iff x=\sin y, \qquad -\frac\pi2\le y\le\frac\pi2, y=cos1x    同値x=cosy,0yπ,y=\arccos x \iff x=\cos y, \qquad 0\le y\le\pi, y=tan1x    同値x=tany,π2<y<π2y=\arctan x \iff x=\tan y, \qquad -\frac\pi2<y<\frac\pi2

である。

tan1\arctan の値域の端点 ±π/2\pm\pi/2 は含まれないことに注意する。

なぜ一般角上の三角関数は逆関数を持たないのか

Section titled “なぜ一般角上の三角関数は逆関数を持たないのか”

関数

f ⁣:XYf\colon X\to Y

が逆関数

f1 ⁣:YXf^{-1}\colon Y\to X

を持つためには、ff全単射でなければならない。

特に単射であること、すなわち

f(x1)=f(x2)  ならばx1=x2f(x_1)=f(x_2)\implies x_1=x_2

が必要である。

sin\sin は実数全体では単射ではない

Section titled “sin⁡\sinsin は実数全体では単射ではない”

sin\sin は周期 2π2\pi の周期関数なので、

sin(x+2nπ)=sinx(nZ)\sin(x+2n\pi)=\sin x \qquad(n\in\Z)

が成り立つ。

たとえば、

sin0=sinπ=0\sin0=\sin\pi=0

であるにもかかわらず、

0π0\ne\pi

である。

したがって

sin ⁣:R[1,1]\sin\colon\R\to[-1,1]

は単射ではなく、逆関数を持たない。

同様に、cos\costan\tan も実数全体をそのまま定義域とした場合には周期性のため単射にならない。

sinθ=x\sin\theta=x を満たす角 θ\theta をすべて考えると、一般には複数の値が存在する。

たとえば

sinθ=0\sin\theta=0

の解は

θ=nπ(nZ)\theta=n\pi\qquad(n\in\Z)

である。

したがって、「00 に対して sinθ=0\sin\theta=0 を満たすすべての θ\theta を対応させる」という意味では、多価的な逆対応を考えることができる。しかし通常の意味での関数は各入力にただ1つの出力を対応させるため、これは実一変数関数としての sin1\arcsin そのものではない。

標準的な sin1\arcsin は、この複数の候補から一定の区間に属するただ1つの値を選ぶことで定義される。

sin1\arcsin を逆関数として定義する

Section titled “sin⁡−1\arcsinsin−1 を逆関数として定義する”

sinx\sin x は区間

π2xπ2-\frac\pi2\le x\le\frac\pi2

では単調増加であり、値域は

[1,1][-1,1]

である。

したがって、制限写像

sin ⁣:[π2,π2][1,1]\sin\colon \left[-\frac\pi2,\frac\pi2\right] \to[-1,1]

は全単射となる。

この逆関数を

sin1 ⁣:[1,1][π2,π2]\arcsin\colon [-1,1] \to \left[-\frac\pi2,\frac\pi2\right]

と定義する。

つまり、

sin1x=[π/2,π/2] 内で siny=x を満たす唯一の y\boxed{ \arcsin x = \text{$[-\pi/2,\pi/2]$ 内で $\sin y=x$ を満たす唯一の $y$} }

である。

たとえば、

sinπ6=12\sin\frac\pi6=\frac12

なので、

sin112=π6.\arcsin\frac12=\frac\pi6.

一方、

sin5π6=12\sin\frac{5\pi}{6}=\frac12

でもあるが、5π/65\pi/6[π/2,π/2][-\pi/2,\pi/2] に含まれないため、sin1(1/2)\arcsin(1/2) の値には採用されない。

多価的に考えれば複数存在する逆三角関数の値のうち、あらかじめ定めた範囲から選んだ代表値を主値という。

実数上では通常、

π2sin1xπ2,-\frac\pi2\le\arcsin x\le\frac\pi2, 0cos1xπ,0\le\arccos x\le\pi, π2<tan1x<π2-\frac\pi2<\arctan x<\frac\pi2

となる値を採用する。

ここで重要なのは、主値とは「xx の範囲」ではなく、逆三角関数について選択されるであるという点である。

cos1\arccostan1\arctan

Section titled “cos⁡−1\arccoscos−1 と tan⁡−1\arctantan−1”

cosx\cos x

0xπ0\le x\le\pi

に制限すると単調減少となり、

cos ⁣:[0,π][1,1]\cos\colon[0,\pi]\to[-1,1]

は全単射になる。

その逆関数が

cos1 ⁣:[1,1][0,π]\arccos\colon[-1,1]\to[0,\pi]

である。

tanx\tan x

π2<x<π2-\frac\pi2<x<\frac\pi2

に制限すると単調増加であり、その値域は R\R 全体である。

したがって、

tan ⁣:(π2,π2)R\tan\colon \left(-\frac\pi2,\frac\pi2\right) \to\R

は全単射となり、その逆関数として

tan1 ⁣:R(π2,π2)\arctan\colon \R\to \left(-\frac\pi2,\frac\pi2\right)

を定義できる。

定義から、

sin(sin1x)=x(1x1),\sin(\arcsin x)=x \qquad(-1\le x\le1), cos(cos1x)=x(1x1),\cos(\arccos x)=x \qquad(-1\le x\le1), tan(tan1x)=x(xR)\tan(\arctan x)=x \qquad(x\in\R)

が成り立つ。

一方、逆向きの合成では定義域に注意が必要である。

たとえば

sin1(sinx)=x\arcsin(\sin x)=x

がそのまま成り立つのは

π2xπ2-\frac\pi2\le x\le\frac\pi2

の場合である。

x=5π/6x=5\pi/6 とすると、

sin5π6=12\sin\frac{5\pi}{6}=\frac12

であるが、

sin1(sin5π6)=sin112=π65π6.\arcsin\left(\sin\frac{5\pi}{6}\right) = \arcsin\frac12 = \frac\pi6 \ne \frac{5\pi}{6}.

これは sin1\arcsin[π/2,π/2][-\pi/2,\pi/2] を値域として定義されているためである。

逆三角関数は、辺の比から角度を求める問題に直接利用される。

たとえば直角三角形で

sinθ=35,0θπ2\sin\theta=\frac35, \qquad 0\le\theta\le\frac\pi2

ならば、

θ=sin135\theta=\arcsin\frac35

と表せる。

また、積分

11+x2dx\int\frac{1}{1+x^2}\dd x

の原始関数として

tan1x+C\arctan x+C

が現れるなど、微分積分学でも重要である。

次の値を求めよ。

sin1(12).\arcsin\left(-\frac12\right). sin(π6)=12\sin\left(-\frac\pi6\right)=-\frac12

かつ

π2π6π2-\frac\pi2\le-\frac\pi6\le\frac\pi2

なので、

sin1(12)=π6.\boxed{\arcsin\left(-\frac12\right)=-\frac\pi6}.

次の値を求めよ。

cos1(1).\arccos(-1).

cos1\arccos の値域は [0,π][0,\pi] であり、

cosπ=1\cos\pi=-1

だから、

cos1(1)=π.\boxed{\arccos(-1)=\pi}. sin1(sin(3π/4))\arcsin(\sin(3\pi/4))

を求めよ。

sin3π4=22.\sin\frac{3\pi}{4}=\frac{\sqrt2}{2}.

sin1\arcsin[π/2,π/2][-\pi/2,\pi/2] 内の値を返すので、

sin1(sin3π4)=π4.\boxed{ \arcsin\left(\sin\frac{3\pi}{4}\right) = \frac\pi4 }.