この記事を読むためには、次の概念を理解していることが望ましい。
- R-加群
- R-線形写像
- 線形写像の核 Kerf と像 Imf
- 商加群
- 包含写像と商写像
- 写像の合成
- 可換図式
核と余核は、単に
Kerf={x∈M1∣f(x)=0},Cokerf=M2/Imf
と定義されるだけでなく、それぞれ特徴的な普遍性を持つ。
核の普遍性は、f と合成して零写像になる写像が必ず Kerf を一意的に経由することを表す。
一方、余核の普遍性は、f との合成が零写像になる写像が必ず Cokerf を一意的に経由することを表す。
この性質によって、核と余核は具体的な集合としての構成に依存せず、写像との関係だけから特徴づけることができる。
核や商加群は線形代数学・加群論における基本的な構成であるが、20世紀に圏論が発展すると、これらを普遍性によって特徴づける考え方が体系化された。
普遍性を用いると、加群だけでなく、群やアーベル圏などのより一般的な圏においても核・余核を統一的に定義できる。
M1,M2,N を R-加群とし、
f:M1→M2,g:N→M1
を R-線形写像とする。
また、
ι:Kerf↪M1
を包含写像とする。
このとき、
f∘g=0
が成り立つならば、
ι∘h=g
を満たす R-線形写像
h:N→Kerf
がただ一つ存在する。
すなわち、g は Kerf を一意的に経由して因子化される。
図式で表すと、
Kerfh⏐↑NιM1g⏐↑NfM2⏐↑0N
という関係に対応する。
まず h の存在を示す。
仮定より、
f∘g=0
であるから、任意の x∈N に対して
f\qty\big(g(x))=0.
したがって、
g(x)∈Kerf.
よって、
h(x):=g(x)
と定めることで、
h:N→Kerf
を定義できる。
g は R-線形写像であり、h は g の値域を Kerf に制限した写像であるから、h も R-線形写像である。
次に、
ι∘h=g
を示す。
任意の x∈N に対して、
\begin{aligned}
(\iota\circ h)(x)
&=\iota\qty\big(h(x))\\
&=h(x)\\
&=g(x).
\end{aligned}
したがって、
ι∘h=g.
最後に h の一意性を示す。
別の R-線形写像
h′:N→Kerf
が
ι∘h′=g
を満たすとする。
このとき、
ι∘h=g=ι∘h′.
したがって、任意の x∈N に対して
\iota\qty\big(h(x))
=
\iota\qty\big(h'(x)).
ι は包含写像であり単射なので、
h(x)=h′(x).
よって、
h=h′.
以上より、条件を満たす h はただ一つ存在する。□
条件
f∘g=0
は、g の像がすべて f によって 0 に送られることを意味する。
すなわち、
Img⊆Kerf.
したがって、g は実質的には最初から Kerf に値を取る写像とみなすことができる。
核の普遍性は、この事実を
g=ι∘h
という因子化によって表している。
M1,M2,N を R-加群とし、
f:M1→M2,g:M2→N
を R-線形写像とする。
また、
π:M2→Cokerf=M2/Imf
を標準的な商写像とする。
このとき、
g∘f=0
が成り立つならば、
h∘π=g
を満たす R-線形写像
h:Cokerf→N
がただ一つ存在する。
すなわち、g は Cokerf を一意的に経由して因子化される。
まず h の存在を示す。
Cokerf=M2/Imf であるから、その元は
x+Imf(x∈M2)
と表される。
そこで、
h(x+Imf):=g(x)
と定める。
この定義が代表元の取り方によらないことを示す。
x+Imf=x′+Imf
とすると、
x−x′∈Imf.
したがって、ある y∈M1 が存在して
x−x′=f(y)
となる。
すなわち、
x=x′+f(y).
よって、
\begin{aligned}
g(x)
&=g\qty\big(x'+f(y)\big)\\
&=g(x')+g\qty\big(f(y)\big)\\
&=g(x')+(g\circ f)(y).
\end{aligned}
仮定より
g∘f=0
であるから、
g(x)=g(x′).
したがって h(x+Imf)=g(x) は代表元の取り方によらず、h はwell-definedである。
また、g の線形性から h も R-線形写像である。
次に、
h∘π=g
を示す。
任意の x∈M2 に対して、
\begin{aligned}
(h\circ\pi)(x)
&=h\qty\big(\pi(x)\big)\\
&=h(x+\im f)\\
&=g(x).
\end{aligned}
したがって、
h∘π=g.
最後に h の一意性を示す。
別の R-線形写像
h′:Cokerf→N
が
h′∘π=g
を満たすとする。
任意の x+Imf∈Cokerf に対して、
\begin{aligned}
h(x+\im f)
&=h\qty\big(\pi(x)\big)\\
&=g(x)\\
&=h'\qty\big(\pi(x)\big)\\
&=h'(x+\im f).
\end{aligned}
したがって、
h=h′.
以上より、条件を満たす h はただ一つ存在する。□
条件
g∘f=0
は、
Imf⊆Kerg
を意味する。
したがって、g は Imf に属する元をすべて 0 に送る。
そのため、Imf の違いを無視して得られる商加群
M2/Imf
上に g を移すことができる。
これが
g=h∘π
という因子化である。
核と余核の普遍性は互いに双対的な形をしている。
| 核 | 余核 |
|---|
| 標準写像 | ι:Kerf→M1 | π:M2→Cokerf |
| 条件 | f∘g=0 | g∘f=0 |
| 因子化 | g=ι∘h | g=h∘π |
| h の向き | N→Kerf | Cokerf→N |
| 基本的な包含関係 | Img⊆Kerf | Imf⊆Kerg |
核では「Kerf へ因子化」し、余核では「Cokerf から因子化」するという向きの違いがある。
R=R とし、
f:R2→R,f(x,y)=x
とする。
このとき、
Kerf={(0,y)∣y∈R}.
さらに、
g:R→R2,g(t)=(0,t)
とすると、
(f∘g)(t)=0.
したがって g は Kerf を経由する。
f:Z→Z を
f(n)=2n
とすると、
Cokerf=Z/2Z.
f(Z)=2Z を 0 に送る準同型は、Z/2Z 上の写像として一意的に因子化される。
f∘g=0 ならば、一般には
Img⊆Kerf
なので、g を
N→Kerf
という写像として定義することはできない。
核と余核の普遍性は、次のような分野で基本的な役割を果たす。
- 加群論
- ホモロジー代数
- 完全列
- アーベル圏
- 圏論
- 商対象の構成
特に完全列
M1fM2gM3
における条件
Imf=Kerg
は、核と余核の考え方と密接に関係している。
R-線形写像
f:M1→M2,g:N→M1
が
f∘g=0
を満たすとする。
Img と Kerf の包含関係を求めよ。
任意の x∈N に対して、
f\qty\big(g(x)\big)=0
なので、
g(x)∈Kerf.
したがって、
Img⊆Kerf.
R-線形写像
f:M1→M2,g:M2→N
が
g∘f=0
を満たすとする。
Imf と Kerg の包含関係を求めよ。
任意の x∈M1 に対して、
g\qty\big(f(x)\big)=0.
したがって、
f(x)∈Kerg
なので、
Imf⊆Kerg.