- 位相空間
- 開集合・開被覆
- アーベル群
- 群準同型
- 圏・関手
- 帰納極限
- 商集合・同値関係
前層は、位相空間 X の各開集合 U に対して代数的な対象 F(U) を対応させ、包含関係 U⊆V に対して制限写像
ρU,V:F(V)→F(U)
を対応させる構造である。
前層の各切断を一点 x∈X の近くで同一視したものを芽と呼び、芽全体からなる対象を茎と呼ぶ。
さらに、局所的に定義された切断が互いに整合しているとき、それらを一意に大域的な切断へ貼り合わせられる前層を層と呼ぶ。
層の考え方は、局所的な情報から大域的な情報を組み立てるための道具として20世紀に発展した。
層という概念は、解析学・位相幾何学・代数幾何学などで現れる「局所的には定義できるが、大域的には必ずしも単純でない対象」を統一的に扱うために用いられる。
特に、正則関数、連続関数、微分形式などを開集合ごとに集め、その制限関係を記録することで、局所情報と大域情報の関係を明確に扱うことができる。
X を集合、O を開集合系とし、(X,O) を位相空間とする。
各開集合
U∈O
に対してアーベル群
F(U)
を定める。
また、
U⊆V
のとき、準同型写像
ρU,V:F(V)→F(U)
を定める。
これらが次の条件を満たすとき、F を X 上の前層と呼ぶ。
-
任意の開集合 U に対して、
ρU,U=idF(U)
-
任意の
U⊆V⊆W
に対して、
ρU,W=ρU,V∘ρV,W
が成り立つ。
ρU,V を制限写像と呼ぶ。
関数の前層の場合には、
ρU,V(f)=f∣U
と書く。
位相空間 X の開集合全体を、包含関係を射とする圏
Open(X)
とする。
アーベル群に値を取る前層とは、反変関手
F:Open(X)op→Ab
のことである。
より一般に、小さな圏 C 上の集合値前層とは、反変関手
F:Cop→Set
をいう。
X を位相空間、F を X 上の前層、x∈X とする。
x の開近傍 U,V と
s∈F(U),t∈F(V)
に対して、
(U,s)∼(V,t)
を、
ある x の開近傍
W⊆U∩V
が存在して、
s∣W=t∣W
となることによって定める。
この同値関係による (U,s) の同値類を、s の x における芽と呼び、
sx
と表す。
芽は、切断そのものではなく、点 x の十分小さい近傍での振る舞いだけを記録したものである。
X を位相空間、F を X 上の前層、x∈X とする。
x を含む開近傍全体を、包含関係の逆向きによって有向集合とみなす。
すなわち、
V⊆U
のとき制限写像
F(U)→F(V)
が存在する。
この帰納系の帰納極限
Fx:=x∈UlimF(U)
を、F の x における茎と呼ぶ。
Fx の元は、x における芽である。
すなわち、
Fx={sx∣x∈U, s∈F(U)}
とみなすことができる。
X を位相空間、F を X 上の前層とする。
U⊆X を開集合、
{Ui}i∈I
を U の開被覆とする。
このとき、以下の2条件が成り立つとき、F を層と呼ぶ。
-
局所的一意性
任意の
f,g∈F(U)
が、任意の i∈I に対して、
f∣Ui=g∣Ui
を満たすならば、
f=g
が成り立つ。
-
貼り合わせ可能性
各 i∈I に対して
fi∈F(Ui)
が与えられ、
任意の i,j∈I に対して、
fi∣Ui∩Uj=fj∣Ui∩Uj
が成り立つとする。
このとき、
f∣Ui=fi
を任意の i∈I に対して満たす
f∈F(U)
が存在する。
条件1と条件2を合わせると、この f はただ一つ存在する。
- 環の層
- 加群の層
- 関数の層
- 微分形式の層
- 正則関数の層
- 連続関数の層
- C∞ 関数の層
- 定数層
位相空間 X に対して、
C(U)={f:U→R∣f は連続}
とする。
U⊆V に対する制限写像を
f↦f∣U
とすれば、C は層になる。
局所的に定義された連続関数が重なりで一致していれば、それらは一意に貼り合わされて U 全体の連続関数を与える。
複素多様体や複素平面上で、
O(U)={f:U→C∣f は正則}
と定めると、O は層である。
局所的な正則関数が重なり合う部分で一致すれば、それらは一意に正則関数として貼り合わされる。
各開集合 U に対して、
F(U)={f:U→R∣f は有界}
とする。
制限写像によって前層になる。
しかし、局所有界な関数を無限個の開集合から貼り合わせた結果が U 全体で有界になるとは限らない。
したがって、この前層は一般には層にならない。
X 上の前層 F に対して、X 上の層 F+ と前層の射
θ:F→F+
の組であって、次の普遍性を満たすものが存在する。
任意の X 上の層 G と前層の射
φ:F→G
に対して、層の射
φ:F+→G
が一意的に存在して、
φ=φ∘θ
を満たす。
この F+ を F の層化と呼ぶ。
層化は、この普遍性を満たすものとして一意な同型を除いて一意である。
さらに、任意の
x∈X
に対して茎に誘導される射
θx:Fx→Fx+
は同型である。
層 F から適切なコチェイン複体
⋯→Cn−1dn−1CndnCn+1→⋯
を構成したとき、その n 次コホモロジー群を
Hn(X,F)=Imdn−1Kerdn
と表す。
層係数コホモロジーは、局所的なデータを大域的に貼り合わせる際の障害を測るために用いられる。
層は、局所情報と大域情報を結びつけるために広く用いられる。
- 代数幾何学における構造層
- 複素解析における正則関数の層
- 微分幾何学における C∞ 関数や微分形式の層
- 層係数コホモロジー
- ベクトル束・局所自由層
- スキーム論
- 導来関手とホモロジー代数学
特に、層係数コホモロジーでは、局所的には解ける問題が大域的には解けない場合の障害をコホモロジー群として記録する。
X を位相空間とし、
C(U)={f:U→R∣f は連続}
とする。
C が前層であることを示せ。
連続関数の前層 C が層であることを、局所的一意性と貼り合わせ可能性の2条件から示せ。
x∈X とし、
s∈F(U),t∈F(V)
とする。
sx=tx であるための条件を、ある x の開近傍 W を用いて記述せよ。
層化
θ:F→F+
が各点 x∈X において茎の同型
Fx≅Fx+
を誘導することの意味を説明せよ。